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名古屋地方裁判所 昭和31年(行)8号 判決 1957年4月30日

名古屋市中村区日比津町字道下二〇番地

原告

有限会社二村化学工業所

右代表者清算人

忠地うた子

右訴訟代理人弁護士

加藤謹治

被告

名古屋国税局長

村山達雄

被告

名古屋西税務署長

岩田勝治

右被告両名指定代理人

宇佐美初男

加藤敏夫

加藤利一

天池武文

服部明

同訴訟代理人弁護士

本山享

右当事者間の昭和三十一年(行)第八号法人税更正決定変更並に右審査決定取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の被告名古屋国税局長に対する請求は棄却する。

原告の被告名古屋西税務署長に対する訴は却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告名古屋国税局長が昭和三十一年三月十五日なした、原告会社の自昭和二十五年一月一日至昭和二十五年十月二十四日事業年度の法人税審査却下決定は之を取消す。(以下請求第一とする。)被告名古屋西税務署長が、昭和三十年三月二十九日付再更正決定をなした前記事業年度の所得金額金八百二十二万九千百円中百三十七万八千九百四十三円を超過する部分は之を取消す。(以下請求第二とする。)訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、

請求原因として、

原告会社はその肩書地に本店を有し活性炭製造業を営み、昭和二十五年十月二十四日解散し、目下清算中の有限会社である。原告会社は、昭和三十年三月二十九日付被告名古屋西税務署長より、原告会社の自昭和二十五年一月一日至同年十月二十四日事業年度の法人所得金額を金八百二十二万九千百円とする旨の再更正決定の通知を受けたが、右決定は、当該事業年度中における原告会社の所得を誤つたものであり、右は真実金百三十七万八千九百四十三円にすぎず、その余は過年度及び原告会社代表者であつた二村富久個人経営時代の所得が累積されていたものにすぎない。そこで原告は右再更正決定を不服として昭和三十年八月一日被告名古屋国税局長宛審査請求をなしたところ、同被告は、昭和三十一年三月十五日付右は不服申立期間後の審査請求であり不適法であるとして、これを却下する旨の決定をなした。而して被告名古屋西税務署長が右再更正決定をなすにあたり、これより以前たる昭和三十年三月二十日頃名古屋国税局において、原告会社の代理人の資格をもつた二村富久外一名は当時原告会社に逋脱の疑ありとし調査中の同局高宮調査々察部長外二名と談合し、その際に、二村は前記再更正決定額の内示を受け、右に対し、その長期徴収猶予を容認されるならば再調査の申立をしない旨告げたところ、高宮等は、右申出の趣旨を諒として、長期に亘りその徴収を猶予するかの如き態度を示し、且つ原告において再調査の申立をするならば、原告会社の法人税の逋脱を告発するかの如き態度を示して、二村等をして畏怖せしめたので、原告会社は長期に亘り右法人税の徴収を猶予されるものと確信し、又告発されることをおそれ、且原告会社は当時ガス害問題で窮地にあつたところから、審査の請求をしなかつたところ、同年五月末頃になつて名古屋国税局徴収課員は原告会社に対し、右法人税の納入を督促し、前記約旨を無視して強い徴税態度を示したので、こゝに前記日時に至りこれが審査の請求をなしたものであつて原告が法定の異議申立期間内に審査の請求をなさなかつたのは前記事情に基くものであり、もともと国税徴収法第三十一条の二第二項の規定を類推しても本件法人税審査請求申立期間については、これが期間徒過につき正当事由ある場合にはこれが追完をなしうべく、前記事情は正しく正当事由に該当すると看るべきのみならず、法人税法基本通達三六一に謂う「不可抗力」とも認めることができ右審査請求は適法に追完せられたものであり、被告名古屋国税局は右期間徒過を理由にこれを却下しえないのにかかわらずこれを却下したのは違法である。よつてこれが却下決定の取消を求めると共に更に前述の如く高宮等は原告をして錯誤に陥らしめて異議申立期間内に、前記再更正決定に対する審査の請求をなす機会を喪失させたもので原告に過失はなく前記再更正決定は前述の如く殆んど談合によりなされたものと等しく課税の対象を欠く重大な瑕疵あるものであるから原処分庁たる被告名古屋西税務署長に対しこれが取消を求めるため本訴請求に及んだと述べ、被告等の本案前の抗弁に対し、前述の如く、原告が法定期間内に審査の請求をなし得なかつた責は被告側にあるのであるから、審査の決定を経ない点につき法人税法第三十七条第一項但書の「正当な事由」あるものと謂うべく従つてこれが審査の決定を経ずして本訴を提起しうるものと謂うべく、被告等の主張は理由がないと述べ立証として証人二村富久の訊問を求めた。

被告等訴訟代理人は請求第一につき主文第一第三項同旨の判決を求め、答弁として原告会社がその肩書地に本店を有し活性炭製造業を営んでいたが、昭和二十五年十月二十四日解散し、目下清算中である有限会社であること、被告名古屋西税務署長は原告会社に対し、その自昭和二十五年一月一日至同年十月二十四日事業年度の原告会社の所得を金八百二十二万九千百円と再更正決定をなし、昭和三十年三月二十九日付原告に対しこれが通知をなしたこと、名古屋国税局において、原告会社代理人二村富久外一名と、名古屋国税局高宮調査々察部長外二名が会合したこと(但しその期日は同年四月八日であり又会談の内容についての原告の主張はすべて否認する)同年五月末頃、名古屋国税局徴収課員が原告会社に対し前記法人税の納入方を督促したこと及び原告会社が昭和三十年八月一日前記再更正決定を不服として被告名古屋国税局長宛審査請求をなし同被告は同三十一年三月十五日右は期間後になされたものである故不適法として却下決定をしたことはいずれもこれを認めるが、その余はすべて否認すると述べ、ついで請求第二につき、本案前の抗弁として主文第二第三項同旨の判決を求め、その理由として被告名古屋西税務署長は昭和三十年三月二十九日原告会社に対し原告主張にかかる事業年度の法人税に対する再更正決定をなし、その通知は同日頃原告に到達したのにかかわらず法定の期間内に再調査の申立又は審査の請求もなく従つて訴の提起の前提たる適法な審査を経たとは云えないのであつて、本訴請求は訴提起の要件を欠く不適法のものであると述べ、

立証として、証人岡田一一の訊問を求めた。

理由

昭和三十年三月二十九日原告主張どおり再更正決定がなされ右決定は、同日頃原告会社に通知されたものであること、及び右を不服として、原告会社は昭和三十年八月一日、被告名古屋国税局長宛審査請求をなし、これに対し同被告は昭和三十一年三月十五日右は審査請求申立期間経過後になされたものであり不適法として却下する旨の決定をなしたことはいずれも両当事者に争がない。而して右各事実に従えば、原告会社のなした審査請求は、その目的たる前記再更正決定が原告会社に到達したる日より三ケ月余を経過してなされたものであることは明白である。この点について原告は昭和三十年三月二十日頃名古屋国税局において、原告会社代理人たる二村外一名と高宮査察官他二名が会合し、その際二村は再更正決定額の内示を受け、右に対しその長期徴収猶予を容認されるならば再調査の申立をしない旨告げたところ高宮等は右申出の趣旨を諒として、長期に亘りその徴収を猶予するかの如き態度を示し、且つ原告において再調査の申立をなすならば原告会社の過年度における逋脱を告発するかの如き態度を示して二村をして畏怖せしめたがために、原告は異議申立期間内に再調査の申立等をなし得なかつたものであつて、「期限経過の事由が不可抗力による」ものであると主張する。

そこで判断するに右主張事実に沿うが如き証人二村富久の供述は措信できないものであり却つて証人岡田一一の証言を徴するに被告名古屋国税局査察官たる高宮外二名が原告会社代理人たる二村富久と同局において会合したのは昭和三十年四月八日であり、既になされた本件再更正決定について被告よりこれが徴収猶予を求めたことはあつたが、現実にその席上前記高宮等が二村等に対し長期執行猶予を約し、又は右を暗示し、又は異議申立をなせば通告処分をなすと称してこれを畏怖せしめたとの各事実を認めることが出来ない。従つて右事実の存在を前提とする原告の主張は理由がなく、かつ原告は当時ガス害問題で窮地にあつたと主張するが、この点については何等具体的な主張及び立証はない。従つて右主張は採用し難いところである。そうしてみれば右期間徒過を理由に被告名古屋国税局長がなした前記審査却下決定は適法であるからこれが取消を求める原告の請求は理由がない。そこで更に進んで原告の請求第二について考えるに元来法人税法第三十七条第一項に依ると再調査の申立又は審査の請求の目的となる処分の取消又は変更を求める訴は、正当の事由ある場合を除き同法第三十五条第五項の決定を経た後でなければ提起できない旨規定されてあるところ、原告のなした本件審査請求は期間徒過を理由に却下せられたとの当事者間に争ない事実及び右却下処分の適法であること、また前段認定のとおりであるから右は未だ実質的審査を経ないものと云うべく、単に形式的な審査を経たからと云つて、本訴が同法第三十七条第一項に云う審査決定を経た適法な訴であると云うことは出来ないものと云うべきである。原告は同項但書に云う正当事由あるものとして審査の決定を経ず出訴しうるものと主張するもかかる主張事実の存在しないことまた前段認定のとおりである。かくて原告主張の如き正当事由の存在はこれを認めることができないからその主張は理由がない。そこで原告が原処分庁たる被告名古屋西税務署長のなした本件再更正決定の取消変更を求める本訴は実質的審査を経ないものであるから不適法として、却下を免れないものと謂わなくてはならぬ。

かようにみてくると原告の第一の本訴請求は失当として棄却し、かつ同第二の訴は不適法として却下することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 西川力一 裁判官 越川純吉 裁判官 山田義光)

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